共通テストやTOEICで「英文の量に時間が追いつかない」と感じている人へ。この記事では、塾講師として15年間受験英語を教えてきた経験から、1文単位での速読を身につける方法を解説します。
世間の速読論とは少し違う角度から書いているので、これまでうまくいかなかった人ほど読んでみてほしいです。
「速く読む練習」をしている限り、速く読めるようにはならない
逆説的に聞こえるかもしれませんが、これが結論です。
英文を速く読みたい受験生の多くは、ストップウォッチを片手に「とにかく速く目を動かそう」とします。でもこのアプローチでは、ほぼ確実に失敗します。
なぜなら、目の動きを速めても理解が追いつかなければ、結局あとで「今のところ何だったっけ」と戻ることになるからです。戻った時点で速さはゼロどころかマイナスになります。
つまり、速読において本当に潰すべきボトルネックは「目のスピード」ではなく「読み返しの発生」なんです。
速読は2階建ての技能
ここで一度、「速読」という言葉を分解しておきます。
英語の速読は、実は1文を速く処理する技能と、長文全体をさばく技能という、性質の違う2つの能力で構成されています。前者がミクロ、後者がマクロ。両方必要ですが、順番がとても大事です。
長文をさばくテクニック(設問先読み、トピックセンテンスの把握、ディスコースマーカーへの注目など)は書店の参考書にも溢れていますし、塾でも頻繁に教えられます。しかしその土台となる「1文を前から処理する力」が抜けたまま長文テクニックだけ学んでも、家を地面に直接建てるようなもので、結局崩れます。
この記事ではあえてマクロの話には踏み込まず、土台となるミクロの方、つまり1文の速読だけを徹底的に扱います。
1文の速読の正体は「戻らないこと」
ミクロの速読を一言で定義するなら、こうなります。
読み終えた箇所には、二度と視線を戻さない。
たったこれだけ。でも、これがとてつもなく難しい。なぜ難しいかというと、日本の英語教育がそもそも「戻ることを前提とした読み方」を教え込んでいるからです。
学校で英文を習うとき、先生はだいたいこう言います。
「まず文全体を見て、主語と動詞を探しましょう」
「関係代名詞のthatがあるから、これは後ろから前にかけて修飾していますね」
一見すると論理的で正しい指導なのですが、この読み方はすべて文の全体像が見えていることが前提になっています。つまり、何度でも視線を行き来させることを当たり前としている。
その癖がついた状態で「速く読みなさい」と言われても、無理な話です。脳が「全体を確認しないと意味が取れない」と思い込んでしまっているのですから。
全体俯瞰型の読み方が奪うもの
文全体を見渡してから理解する読み方には、もうひとつ見落とされがちな弊害があります。それは、節の境目に対する感度が著しく鈍ることです。
前から処理する人は、thatやwhichやbecauseが出てきた瞬間に「あ、ここで枝分かれするな」と反応できます。逆に主節の動詞が現れた瞬間、「さっきまでの長い名詞句が主語だったのか」と確定できます。
この節の出入りに対するリアルタイムの感覚は、全体を見渡す読み方では一生身につきません。なぜなら、最初から全部見えている人にとっては「境目に気づく」という行為そのものが必要ないからです。
しかし試験本番では、時間という制約のせいで全体を悠長に俯瞰している暇はない。だから境目に対する瞬発的な感度こそが、本番で効く力になります。
「外国語でそんなことができるのか」という疑問について
ここまで読んで、こう思った方もいるかもしれません。「言ってることは分かるけど、外国語でそんな芸当ができるとは思えない」と。
安心してください。むしろ逆です。これは日本人なら例外なくできる、極めて簡単な行為です。
理由はシンプルで、これは言語能力の話ではなく、行為の話だからです。試しに、今あなたが読んでいるこの文章を思い返してみてください。
あなたはこの段落を、最後まで目を通してから「主語はどれかな」と探しましたか?していないですよね。一字一句、上から下へ、左から右へ流れるように読み進めて、その瞬間瞬間に意味を受け取っているはずです。
これを日常的にやっているのに「英語ではできない」と感じているとしたら、それは英語が難しいからではなく、英語のときだけ違うモードに切り替えるよう訓練されてしまっているからです。
むしろ英語のほうが「前から読む」のに向いている
ここはあえて強調しておきたいのですが、純粋な構造の話だけで言えば、前から読みやすさは英語のほうが日本語より圧倒的に上です。
日本語を構造的に観察してみましょう。たとえば「昨日駅前のカフェで偶然出会った高校時代の友人は、来月アメリカに留学する」という文。
「昨日駅前のカフェで偶然出会った」まで読んだ時点では、多くの人の脳は無意識に「(私が)出会った」という、自分を主語にした文として処理しています。日本語は主語を平気で省略するので、読み手が勝手に「私」を補ってしまうわけです。
ところが「高校時代の友人は」が出た瞬間、解釈はひっくり返ります。「出会った」は述語ではなく修飾節の中の動詞で、本当の主語は「友人」、本当の述語は最後の「留学する」だったのです。途中まで組み立てた解釈を、後から出てきた情報で組み直さされるわけです。本来、日本語こそ後ろから読み返したくなる言語なんです。
英語ではどうなるか。同じ内容を英語にすると次のようになります。
The old friend who I happened to meet at the café in front of the station yesterday is going to study in America next month.
冒頭のThe old friendで主語が即座に確定し、whoで「ここから友人を説明する節が始まる」と予告が入る。節が終わればis going to studyで述語も明示されます。前置詞atやinも、出るたびに「次は場所が来る」と先読みを許してくれる。
日本語のように「主語だと思っていたものが主語じゃなかった」という解釈のひっくり返しは、英語では原理的に起こりません。書き手が読み手に対して、節の始まりも主語も構造の切れ目も、すべて先に予告しながら情報を出してくれる言語だからです。後出しじゃんけんの日本語と比べたら、英語は手の内を最初に見せてくれる、よほど親切な構造をしていると言えます。
その日本語をあなたは前から普通に処理できているのですから、より易しい設計の英語を前から読めないわけがありません。
トレーニング法:シートで「戻れない」状態を作る
理屈が分かったところで、具体的なトレーニング法に進みます。
私がずっと塾で勧めているのは、読んだ単語を後ろから不透明なシートで覆っていく方法です。1単語進むごとにシートも1単語分動かす。視線が戻ろうとしても、戻る先が物理的に見えないので戻れません。
ポイントは「先を隠す」のではなく「過去を隠す」ことです。これを逆にやっている解説をたまに見ますが、それでは意味がありません。先を隠しても読む方向は変わらないので、結局後ろに戻る癖は残ります。
過去側を消すことで初めて、「もう戻れないから今この瞬間に理解しきるしかない」という状況が生まれます。
最初のうちは、不安で仕方ないはずです。
「あれ、主語なんだっけ」
「さっきの代名詞、何を指してたんだっけ」
でも確認できない。
この強制的な不安こそが訓練の核心です。不安に耐えながら前に進む経験を積むうちに、脳は「だったら最初に読んだ瞬間にちゃんと処理しておこう」と学習します。これが起こると、英文の見え方そのものが変わり始めます。
教材選びのコツ
訓練の教材は、自分のレベルよりかなり下を選んでください。中学レベルの長文集や、英検なら準2級〜2級あたりが目安です。
「簡単すぎないか」と感じるかもしれませんが、それでいいんです。この訓練でやろうとしているのは語彙や文法の習得ではなく、読み方の癖そのものの上書きです。
難しい文章を選ぶと、内容理解に脳のリソースを取られて、肝心の「前から処理する」部分に集中できません。スポーツでフォーム改造をするときに軽い負荷から始めるのと同じです。
「ゆっくりやる速読」という第一歩
最後に、訓練を始める人に必ず伝えていることを書きます。
このやり方を始めると、最初の数日は確実に今までより読むのが遅くなります。下手すると倍くらい時間がかかります。これは異常ではなく、むしろ正常です。長年染み付いた「戻る読み方」を捨てている最中なので、一時的にぎこちなくなるのは当然のことです。
ここで「やっぱり速読の訓練なのに遅くなるのはおかしい」と感じてやめてしまう人が、本当に多い。でも思い出してください。速読の本質は速さではなく、戻らないことでした。
だからこの段階では、ゆっくりでいいから戻らずに最後まで読み切ることだけを目標にしてください。私はこれを「遅い速読」と呼んでいます。
遅い速読が安定してできるようになると、ある日を境に急に処理速度が上がってきます。脳が前から処理する回路を作り終えた瞬間です。そこから先は、もう戻る読み方には戻れなくなります。
まとめ
- 速読の本質は目を速く動かすことではなく、視線を戻さないこと
- 速読には1文単位と長文単位の2階層があり、1文の方が土台
- 全体俯瞰型の読み方は、節の境目に対する感度を奪う
- 前から処理することは、母語ではすでにやっている行為
- 構造的には、英語のほうが日本語より前から読みやすい
- シートで過去を隠す訓練で、強制的に戻れない状況を作る
- 最初は「遅い速読」でいい。速さは後からついてくる
この速読で鍛えた「前から処理する力」は、そのままリスニング力にも直結します。リスニングが伸び悩んでいる人は、こちらの記事も合わせて読んでみてください。
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