「シャドウイングをやれ」
「洋楽を聞け」
「とにかく英語のシャワーを浴びろ」
リスニングの勉強法として、世間ではいろいろなことが言われています。
でも、その方法を真面目に何ヶ月も続けているのに伸びない人、あなたの周りにもいませんか?あるいは、あなた自身がそうかもしれません。
実はリスニングが伸びない原因は、リスニングの練習そのものにはないことがほとんどです。塾講師として15年間、英語を教えてきた経験から言わせてもらうと、リスニング力を決めているのは別の2つの要素です。
それは英文を処理するスピードと、音を聞き分ける解像度。この記事では、この2つをそれぞれどう鍛えるかを解説していきます。
巷のリスニング勉強法を疑うところから始めよう
最初に、世間で言われている方法論について少しだけ触れておきます。
シャドウイング、ディクテーション、洋楽、海外ドラマ、英語ニュース。どれも「やった人ができるようになった」という体験談が無数にあります。でも、ここで考えてほしいのは、それが因果関係なのか相関関係なのかということです。
「その方法で伸びた」と言っている人は、たまたま別の要因(リーディング力、発音の素地、学習継続力など)を持っていただけで、シャドウイングそのものが効いたわけではない可能性が十分にあります。再現性のない成功体験を方法論として広めているケースは、英語学習の世界では本当によくある話です。
ではどこを鍛えるべきか。リスニングができないとき、人の脳の中では2つのボトルネックが起きています。
ひとつは、音は聞こえているのに意味の処理が追いつかないという状態。もうひとつは、そもそも音そのものが正しく聞き取れていないという状態。
前者は処理速度の問題、後者は音の解像度の問題です。この2つは原因が違うので、対策もまったく別になります。順番に見ていきましょう。
ボトルネック1:リスニングの処理速度は、リーディングの読み方で決まる
意外に思われるかもしれませんが、リスニング力の半分くらいはリーディングの勉強の仕方で決まっています。
ここで言う「リーディングの仕方」というのは、文法や単語をどれだけ覚えているかという話ではありません。もちろん覚えている方がいいに決まっていますが、それ以前の問題です。
重要なのは、英文を前から順番に処理しているか、それとも全体を見渡してから理解しているかです。
「全体を見て構造を分析する」読み方の限界
学校や塾でよく教えられる読み方を思い出してみてください。
「英文全体を見て、soとthatがこことここにあるから、これはso that構文だ」
「前置詞があるからここからが副詞句で、ということはここが名詞節で…」
こういう分析は、確かにリーディングでは有効です。問題が解けるようになるし、定期テストでも成果が出る。
でも、この読み方には決定的な弱点があります。全体が見えていることが前提になっているということです。文の最初から最後まで一望できるからこそ、構造を分析して解釈を組み立てられる。逆に言えば、全体が見えなければ何もできない読み方なんです。
リスニングを思い浮かべてください。リスニングで文全体を一望することは、原理的に不可能です。音は時間の流れに沿って一方向にしか進まないので、後から「全体を見渡す」ことができません。出てきた順に、リアルタイムで処理していくしかない。
つまり、「全体を見て分析する」読み方しかできない人は、リスニングでは何もできないのです。リーディングではある程度点が取れているのに、リスニングになると途端に崩れる人が多いのは、ここに原因があります。
普段から「前から処理する」読み方を訓練しておくしかない
ではどうすればいいか。答えはシンプルで、リーディングの段階から前から順に処理する読み方(いわゆる速読)を習慣化しておくことです。
ここで言う速読は、目を速く動かす訓練ではありません。視線を絶対に後ろに戻さず、英語の語順のまま意味を取っていく読み方のことです。
thatが出てきたら「ここから新しい節が始まる」と即座に反応し、主節の動詞が現れたら「さっきまでの長い名詞句が主語だったのか」と確定する。文を俯瞰せずに、前から構造を立ち上げていく感覚です。
これを普段のリーディングからやっておくと、リスニングのときも同じ脳の使い方ができます。逆にこれができていない人がいくらシャドウイングをやっても、根本の処理様式が変わっていないので伸びません。
このあたりの具体的な訓練法は、別の記事で詳しく書きました。「読み返さない」を身につけるための物理的なトレーニング法や、なぜそれが効くのかという理屈まで踏み込んでいるので、この記事と合わせて読んでもらえると効果が倍になります。
英語の速読を本気で身につけるための訓練法ボトルネック2:自分が発音できない音は、聞き取れない
処理速度の問題をクリアしても、まだリスニングが伸びない人がいます。その場合、もう一方のボトルネックである音の解像度に原因があります。
リスニングの世界には、ひとつ動かしがたい原則があります。
自分が発音できない音は、聞き取れない。
これは比喩でも精神論でもなく、認知のメカニズムとしてそうなっています。人間が音を聞き取るとき、脳はその音を「自分が発音するとしたらどう動かすか」という運動情報と照合しています。だから、自分の中にその音の運動パターンがない人は、その音を聞いても「自分が知っている近い音」に勝手に変換してしまうんです。
カタカナ発音で英語を覚えてきた人がリスニングで詰むのは、これが原因です。rightもlightも自分の中では「ライト」という同じ運動パターンに紐づいているので、ネイティブがどちらを言っても同じ音にしか聞こえない。
sitとseatも「シット」と「シート」で別物だと思っているかもしれませんが、実際の母音の長さや質はカタカナでは捉えきれていないので、混同します。
sea、she、Cのうち、1つだけ仲間外れがいます
具体例を出します。
sea、she、C。この3つ、カタカナで書けば全部「シー」です。でも英語では、1つだけ仲間外れがいます。どれだか分かりますか?
正解はsheです。sheだけがʃiːでshの音、seaとCはどちらもsiːでsの音です。日本人はこの3つを全部「シー」で済ませているので、ネイティブがCと言ったのかsheと言ったのかを区別できません。
ここで終わらないのが面白いところで、このsとʃの対立は、あなたが普段使っている単語の中にも実は隠れています。
たとえばseedの冒頭の音はどっちですか?dishesの語尾の-shesの部分は?sea側ですか、she側ですか?
正解は、seedはs(=sea側)、dishesの-shesはʃ(=she側)です。普段カタカナで「シード」「ディッシーズ」と発音している人にとっては、どちらも同じ「シ」の音にしか感じられないかもしれません。
でも発音を本気でやり始めると、この2つの音はもう同じ音には聞こえなくなります。完全に別の音、別の口の形、別の舌の位置だからです。
そうなって初めて、ネイティブがseedと言ったのかshe'dと言ったのかが瞬時に区別できるようになります。リスニング力の正体の一部は、こういう「日本語耳では同じに聞こえていた音が、別の音として分離して聞こえるようになる」という現象なんです。
まずは子音から正しく発音する
では具体的に何から始めるべきか。最初に取り組むべきは子音です。
理由は、日本語と英語で最も差が大きいのが子音だからです。母音もズレてはいるのですが、子音の方が「日本語に存在しない音」が多く、混同のダメージも大きい。具体的には次のあたりが要注意ポイントです。
- 無声音と有声音の区別(
pとb、tとd、kとg、fとv、sとzなど) sとʃの区別(先ほどのseaとshe)thの発音(θとð)。日本語にはまったく存在しない音rとlの区別。これも日本語にはどちらも存在しない
これらをひとつずつ、口の動かし方から覚え直します。鏡を見ながらでも、解説動画を見ながらでもいいので、自分の口でその音が出せるようにする。
そして大事なのは、覚えた発音を普段からずっと使うことです。授業で英文を音読するとき、単語を口に出すとき、英語の歌を歌うとき、すべての場面でカタカナ発音を封印してください。一度カタカナに戻ってしまうと、せっかく作った運動パターンが上書きされてしまいます。
「人前で正しい発音をするのは恥ずかしい」と感じる人もいるかもしれません。でも正直に言うと、カタカナ発音を続けたままリスニングが伸びた人を、私は15年間で一人も見たことがありません。恥ずかしさと引き換えにリスニング力を捨てるか、恥ずかしさを受け入れて伸ばすか、選ぶしかないんです。
次のステップ:リエゾン
子音の発音がある程度できるようになったら、次はリエゾン(音のつながり)に進みます。
英語のネイティブは、単語ごとに区切って話していません。前の単語の最後の子音と、次の単語の最初の母音がくっついて、まったく別の音のように聞こえます。get upが「ゲット アップ」ではなく「ゲラップ」に近く聞こえるのは有名ですが、こういう現象が文中のあらゆる場所で起きています。
分かりやすい例を挙げます。party nightという2語、ネイティブが言うと何と聞こえるか知っていますか?「パーティー ナイト」ではありません。「パーリナイ」です。
カタカナで「パーティー ナイト」と覚えている人がこの音声を聞いても、絶対にparty nightだとは気づけません。「パーリナイ」という未知の単語が出てきたとしか思えない。逆に、自分で「パーリナイ」と発音できるようになっていれば、ネイティブの音声が即座にparty nightとして認識できます。
ここで少し気持ち悪い話をします。実は日本の学校英語でも、リエゾンは教わっているんです。ただし、最悪の形で。
Did you 〜?は「ディジュー」と読みます、Could you 〜?は「クッジュー」と読みます。こういうの、習いましたよね。あれです。でもよく考えてみてください。なぜDid youとCould youだけ?なぜ他のフレーズについては何も言われない?
答えは、学校英語が音変化という現象そのものを認めていないからです。本当は英語の音は文中のいたるところでつながったり変化したりしているのに、それを正面から教えると体系が崩れる。だから、あまりに頻出で無視できないDid youとCould youだけを「特別なフレーズ」として例外扱いし、丸暗記させている。これは音変化の指導ではなく、現象の隠蔽です。
結果として、生徒の頭の中には「Did youとCould youだけは特殊な発音をする魔法の表現で、それ以外の英語は単語ごとにキッチリ区切って読むもの」という、極めて歪んだ世界観が出来上がります。これでリスニングができるようになるわけがありません。
これを「単語ごとに区切って読む」癖がついたまま聞こうとすると、何を言っているのか永久に分かりません。逆に、自分でリエゾンを使って発音する訓練をしていると、ネイティブの音が「変な音」ではなく「自然な音」として聞こえてきます。「そりゃそうつなげるよね、その方が言いやすいもん」と感じられるようになる。
そうなれば、リスニングは劇的に楽になります。
おすすめ教材
発音とリエゾンの両方を体系的に学べる教材として、私が長年勧めているのは『知ってる英語なのになぜ聞き取れない?ネイティブ発音・リスニング7つの法則』です。タイトルの通り、ネイティブの音声がなぜ「知ってるはずの単語なのに聞き取れない」のかを、発音の法則からきちんと解説してくれます。
リスニングの教材を買い漁る前に、まずこの一冊で発音の地盤を作ることをおすすめします。
まとめ
- リスニングが伸びない原因は、リスニングの練習法ではなく処理速度と音の解像度にあることがほとんど
- 処理速度を上げるには、リーディングを「前から処理する読み方」に切り替える(=速読の習得)
- 全体を見て分析する読み方しかできない人は、リスニングでも崩れる
- 音の解像度を上げるには、発音を直すしかない。自分が発音できない音は聞き取れない
- まずは子音から、特に無声音/有声音、
sとsh、th、rとlの区別 - 次にリエゾン。単語区切りの読み方を捨てる
- カタカナ発音を続ける限りリスニングは伸びない
速読の訓練法については別記事に詳しくまとめています。リスニングを本気で伸ばしたいなら、必ずセットで読んでみてください。
英語の速読を本気で身につけるための訓練法